大判例

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仙台高等裁判所 平成11年(ネ)94号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件は、控訴人が、被控訴人の役場内において柳村純一村長に村政に関して陳情中、同村長から「誰かA(控訴人)に毒の入っている茶を持ってこい」などと公然と侮辱されて精神的苦痛を被ったとして、被控訴人に対して国家賠償法一条一項により慰謝料の請求をして提訴したところ、原審が控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴した事案である。

一  争いのない事実

1  控訴人は被控訴人の村民であり、平成八年九月一八日当時の被控訴人の村長は柳村純一(以下「柳村村長」という)であった。

2  控訴人は、右同日、被控訴人の役場内において柳村村長と面会した。

3  柳村村長は同日、同役場総務課室内で「控訴人に毒の入った茶を持ってこい」という内容の発言をした(以下、この発言を「本件毒茶発言」という)。

二  控訴人の主張

控訴人の主張については、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」中の「二 原告の主張」(原判決四頁八行目から五頁七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四頁九行目の「一八日、」の次に、「被控訴人役場総務課内において、」と加え、同じ行の「被告柳村」を「柳村村長」と改め(以下、原判決を引用する場合には、「被告柳村」を「柳村村長」と読み替えるものとする)、同末行の「突如立腹し」を、「陳情内容に立腹し、」と改める。

2  原判決五頁三行目の「原告に対する不法行為であり、また、」を削り、同四行目の「村政(」の次に「公共工事の」を加える。

三  被控訴人の主張

被控訴人の主張については、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」中の「三 被告らの主張」(原判決五頁八行目から八頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

原判決五頁八行目の「被告ら」を「被控訴人」と改め、同九行目を削り、同八頁二行目の「すれば、」の次に、「控訴人に対して違法性が認められるような行為とはいえず、」と加え、同じ行の「ほどの行為には該当しない。」を「ものではない。」と改める。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」(原判決九頁四行目から二〇頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決九頁五行目を削る。

2  原判決九頁七行目の「原告」を「控訴人(原審並びに当審)」と改め、同一二頁四行目の「同日」の次に「昼ころ」を、同一三頁一〇行目末尾に続けて「柳村村長の発言は、ことさらに聞こえよがしに述べたものではなかったし、特に大きな声を出したものでもなかった。」を、同一六頁二行目の「認められ、」の次に「原審並びに当審における」をそれぞれ加え、同四行目の次に、行を変えて次のとおり加える。

「なお、本件毒茶発言の内容について、控訴人は、「お前は大体うるさいんだよな。誰かAに毒の入っている茶を持ってこい。」と言われた旨主張し、甲第一号証、第七号証及び原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果中には同趣旨の記載や供述部分が存在する。しかしながら、右各証拠から窺われる控訴人と柳村村長との当日のやりとりからは、昭和二五年生まれの柳村村長が、昭和一三年生まれで、一二歳も年上の控訴人に対し、名前を呼び捨てにしなければならないような状況は窺われず、柳村村長がそのような発言をしたというのは不自然であるし、さらに柳村村長が発言したとされる内容についても、右各証拠ごとに食い違いがあり一貫性がないこと等に照らせば、右各証拠の本件毒茶発言の内容に関する部分はたやすく採用できず、他に控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。」

3  原判決一七頁六行目から同一八頁一行目までを次のとおり改める。

「3 一般に、民法七一〇条又は七二三条にいう名誉とは社会的名誉のみを指し、名誉感情は含まないと解されているが(最高裁判所昭和四三年(オ)第一三五七号、同四五年一二月一八日第二小法廷判決・民集二四巻一三号二一五二頁参照)、暴言その他、人を侮辱する言動によって主観的名誉感情が侵害されたにとどまる場合であっても、それが人格に対する軽蔑として相手方の精神的な平穏を害し、精神的苦痛を感じさせる行為として、社会通念上受忍限度を越えた場合には人格権侵害として不法行為責任を生じさせる場合があると解するのが相当である。したがって、公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うにあたって、人を侮辱する言動をとり、違法に他人に精神的苦痛を与えたような場合には、国家賠償法一条一項による国家賠償責任が生じる場合があるというべきである。

ところで、本件毒茶発言の内容である「例の毒の入ったお茶を持って来い」という言葉は、それが発言された状況如何によっては、毒をもって制するなどの言葉を連想させ、対象とされた者にとっては抹殺するに足る人物であるというような侮辱の意味を持つことになるから、対象となった人物の名誉感情を侵害し、精神的苦痛を与えたものとして不法行為を成立させる場合があり得ると解される。もっとも、人の名誉感情自体はもともと個人差の大きいものであるし、社会的名誉と比較すると社会生活上その重要性が低く、保護法益性においても劣るものであるから、その侵害行為が、不法行為として損害賠償責任を生じさせるというためには、特にその違法性が明白であり、相手方が受忍限度を越えた精神的苦痛を被ったことが客観的に明確であることなど不法行為の成立の要件を厳格に解するのが相当である。

そこで、この観点から、本件毒茶発言が違法に他人に損害を加えるようなものであったかどうかについて検討する。前記認定の事実によれば、本件毒茶発言はその発言内容自体が直接他人を侮辱する言辞ではなく、間接的な表現に止まっていること、控訴人と柳村村長とは親密な関係にあったとまでは認められないものの、旧知の間柄であり、控訴人は、柳村村長が村長に就任後もたびたび同人のもとを訪れ情報提供をするような比較的緊密な関係にあり、軽口をたたくような関係ではないとしても、気を許して行き過ぎた発言がなされたとしても不自然とはいえない関係であったこと、本件毒茶発言が控訴人を対象として、同人に聞かせるためになされたことは明らかであるが、村長室に隣接する総務課内で待機していた控訴人を村長室に招き入れるに際し、来客にお茶を出してくれる総務課の女性職員に対し、お茶出しを依頼するときに発せられたものであり、格別に大きな声で他の職員に聞こえよがしに述べられたものではなく、前記のような人間関係から、気を許してうっかりなされた失言の類と理解でき、計画的になされたものでもなく、悪意に満ちた発言とまでは認められない。また、前記認定の事実によれば、控訴人は、本件毒茶発言のなされた後、村長室内において、そのことに言及したり、異議を述べたりした事実はなく、所期の目的である公共工事の談合に関する陳情を終えるとそのまま辞去しており、控訴人が本件毒茶発言によって憤慨したり、大きく動揺を受けたというような状況は認められないこと、控訴人が辞去した後、柳村村長は、担当職員を集めて協議をしたうえ、本件工事の入札日を延期することを決するなど控訴人の陳情に速やかに対応しており、控訴人としてはそれなりに柳村村長に対する訪問目的を達成していること等の事実を認めることができ、以上のような事実によれば、本件毒茶発言によって控訴人が受忍限度を越えた精神的苦痛を被ったとまで認めることはできない。以上のような事情を総合して判断すると、柳村村長の本件毒茶発言が慰謝料請求の事由となるような違法性の高い行為であると認めることはできない。」

4  原判決一八頁二行目から同二〇頁二行目までを、次のとおり改める。

「4 なお、控訴人は、本件毒茶発言により怒りを感じ、翌九月一九日に電話で抗議したうえ、一〇月四日に書面で謝罪を要求しており、控訴人が侮辱を受けて、名誉感情を傷つけられたことは明らかである旨主張し、原審における控訴人本人尋問の結果中には、当日「本件毒茶発言に体が震えるほど怒りを感じた」旨の控訴人の主張に副う供述が存するところであるが、それほど怒りを感じたのに、控訴人が当日、本件毒茶発言に言及したり、異議を述べないまま陳情を終えて平穏に村長室を辞去したというのは不自然であり(本件毒茶発言に対して、何も述べなかったことは控訴人自身が自認するところである)、右控訴人本人の供述はたやすく信用することができない。もっとも、控訴人が翌日抗議の電話をし、その後書面で謝罪を求めたことについては、これを認めることができるが、この事実だけでは控訴人が発言当日名誉感情を傷つけられ受忍限度を越えた精神的苦痛を被ったとまで認めるには不十分であり、前記認定を覆すに足りないというべきである。

5  そうすると、控訴人の、被控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。」

二  以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。

よって、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林崇 裁判官 大沼洋一)

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